eKYCは“本人確認”だけでは足りない ― 不正対策・UX・運用を分断しない設計思想

株式会社Liquid
目次
はじめに
金融サービスや通信、EC、シェアリングエコノミーなど、オンライン完結型のサービスが拡大する中で、eKYC(オンライン本人確認)は欠かせない仕組みとなりました。
日本では、犯罪による収益の移転防止に関する法律(犯収法)や携帯電話不正利用防止法(携帯法)に基づき、非対面での本人確認手法が制度的に整備されてきましたが、2027年4月に予定されている犯収法施行規則の改正により、ホ方式(本人確認書類の撮影+容貌撮影)は廃止されます。
※2027年「ホ方式」廃止後に導入すべきeKYCとは
これにより、今後の本人確認は ICチップを利用した方式が前提 となります。
一方で、制度対応としてeKYCを見直す事業者の中には、
-
「どの方式に切り替えればよいのか」
-
「UXが悪化しないか」
-
「運用や不正対策まで考えきれていない」
といった悩みを抱えるケースも少なくありません。
本記事では、方式選定の話にとどまらず、eKYCを“本人確認機能”として切り出すのではなく、不正対策・UX・運用を分断しない設計思想という観点から、これからのeKYC設計で押さえるべきポイントを整理します。
なぜ「本人確認だけ」では不十分なのか
結論から言うと、本人確認を強化するだけでは、不正・離脱・運用負荷のいずれかが悪化しやすいため、eKYCは“プロセス全体”として設計する必要があります。
これまでeKYCは、「法令で求められる本人確認をオンラインで実現する仕組み」として導入されることが一般的でした。特にホ方式は、撮影中心のシンプルなUXにより、多くの事業者で採用されてきました。
しかし、ICチップ方式が前提となる今後の環境では、本人確認の厳格化=事業全体の安全性向上とは限りません。
実際の運用では、
-
本人確認は通過したが、その後の不正利用が発生する
-
UXを優先した結果、なりすましリスクが残る
-
例外対応が増え、審査・サポート部門の負荷が増大する
といったケースが見られます。
これは、eKYCを「本人確認の通過点」としてのみ設計していることが原因です。本人確認・不正対策・UX・運用は、それぞれ独立した要素ではなく、相互に影響し合う構造を持っています。
eKYCを取り巻く制度改正の前提
今回の犯収法・携帯法改正により、非対面の本人確認はICチップ読取を前提とする方式へ移行します。これは、本人確認の信頼性や耐偽造性を高めるうえで、制度的にも合理的な流れです。
一方で、制度改正が直接対象としているのは「身元確認」です。実務上は、次の整理が重要になります。(入口の本人確認と、利用中の本人確認は別の設計課題です)。
-
身元確認:新規契約・登録時に「誰であるか」を確認する
-
当人認証:ログインや重要操作時に「本人かどうか」を確認する
多くの不正被害は、身元確認を通過した後のログインや取引時に発生します。そのため、eKYCを制度対応の範囲だけで設計すると、本人確認後の不正対策や認証設計が手薄になるリスクがあります。
本人確認を“単体機能”として導入する限界
ホ方式廃止を受け、カ方式(JPKI)やへ方式、ル方式への移行を検討する事業者は増えています。しかし、方式を置き換えるだけでは、次のような課題が顕在化します。
-
暗証番号忘れや証明書失効による申込停止
-
代替フローが用意されておらず、そのまま離脱
-
例外対応が増え、目視確認の工数・問い合わせ対応が膨らむ
これらは方式の欠陥ではなく、eKYCを「本人確認機能」として切り出して導入していること自体が原因です。
本人確認だけを最適化すると、UX・不正対策・運用のどこかに必ずしわ寄せが生じます。
分断が生まれる典型的な設計パターン
実際の導入現場でよく見られるのが、次のような分断です。
-
セキュリティ・法務観点で方式を決定
-
プロダクト側でUXを後付け調整
-
運用負荷は導入後に顕在化し、審査部門が対応
この構造では、
-
UX改善 → 不正リスク増大
-
セキュリティ強化 → 離脱率上昇
-
例外対応増加 → コスト・遅延増大
というトレードオフが発生します。
たとえば、『離脱が増えたのでセルフィーを外した結果、なりすまし検知が弱くなり、不正申請が増える』といった形で、改善が別問題を呼びやすくなります。
重要なのは、 「どの方式を使うか」ではなく、「ユーザーをどう流すか」から設計することです。
これからのeKYC設計で重視すべき視点
ホ方式廃止後のeKYC設計では、以下の視点が欠かせません。
ユーザー状態を前提とした分岐設計
暗証番号を覚えているユーザーもいれば、忘れているユーザーもいます。
マイナンバーカードを保有していないケースも存在します。
ポイントは、方式選定より先に 『つまずくユーザーをどこに受け止めるか』を決めることです。たとえば、暗証番号が不明/IC読取ができない/在留カードで申込といったケースを、どの導線で救済するかを設計に織り込みます。
例外処理を前提にした運用設計
自動化率が高くても、数%の例外対応が運用を圧迫することは珍しくありません。
証明書失効や外字、在留カードなど、どこで人が介在するのかを事前に定義することが不可欠です。
身元確認と当人認証を切り分けて考える
初回の本人確認だけでなく、ログイン・重要操作時の認証まで含めて設計することで、不正対策は初めて成立します。
eKYCを事業基盤として捉えるという考え方
eKYCは、申込フローの一部ではありません。
-
初回登録時の本人確認
-
不正アカウントの排除
-
継続利用時の認証
-
審査・サポート体制の効率化
これらを支える 事業インフラ として機能します。
方式を個別に最適化するのではなく、不正対策・UX・運用を一本の線でつなぐことで、はじめて持続可能なeKYC設計が実現します。
まとめ
2027年のホ方式廃止は、単なる制度対応ではなく、 eKYCの設計思想そのものを見直すタイミングです。
-
本人確認だけで完結させない
-
不正対策・UX・運用を分断しない
-
方式ではなく「流れ」から設計する
こうした視点を持つことで、制度対応にとどまらず、事業成長を支えるeKYC基盤を構築することが可能になります。
LIQUID eKYCは、金融機関や大手事業者で数多くの導入実績を持ち、法令対応からユーザー体験改善まで支援可能です。
詳細な導入方法や運用に関するご相談は、以下よりお問い合わせください。

Liquidは、生体認証を活用し、認証を空気化することで、世界約80億人全ての人があるがままの状態であらゆるサービスを簡単・安全に使える、なめらかな世界の実現を目指しています。また、金融の取引時確認(犯罪収益移転防止法)、携帯電話契約(携帯電話不正利用防止法)、中古品買取(古物営業法)、不動産取引、CtoC取引などにおける本人確認のオンライン化の流れに合わせ、業界や導入事業者をまたがって横断的に不正検知を行う仕組みを提供し、利便性とセキュリティの両面を追求して参ります。





