eKYC各方式の強みと弱みを徹底比較

株式会社Liquid
目次
はじめに
金融サービスや携帯電話の契約、ECサービス等のオンライン化が進む中で、本人確認(eKYC: electronic Know Your Customer)の重要性はますます高まっています。
特に日本では「犯罪による収益の移転防止に関する法律(犯収法)」や「携帯電話不正利用防止法」などの関連法規に基づき、非対面での本人確認手法が整備されてきました。
しかし、2027年4月に予定されている犯収法施行規則の改正(携帯法は2026年4月に改正)により、長らく多くの事業者が採用してきた ホ方式(本人確認書類の撮影+容貌の撮影) は廃止されます。
※2027年「ホ方式」廃止後に導入すべきeKYCとは
その後は ICチップの読取を必須とする方式 が基本となり、事業者は新たな方式への移行が求められます。
本記事では、ホ方式廃止後に利用可能となる主要なeKYC方式 ―― カ方式(JPKI)・へ方式・ル方式 を中心に、それぞれの強みと弱みを整理し、導入を検討する事業者が押さえるべき実務的なポイントを解説します。
eKYCを取り巻く制度改正の背景
犯収法において、2018年にeKYCが制度上認められて以来、非対面での本人確認は金融機関にとどまらず、ECやシェアリングエコノミー、通信事業などへと広がってきました。
特に普及したのは ホ方式 でしたが、以下の課題が指摘されてきました。
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セキュリティの限界
画像撮影方式では、身分証明書の顔写真部分を差し替えるだけでなりすましが可能であるほか、近年ではDeepfakeを用いた高度な偽造にも弱い構造となっています。そもそもホ方式はICチップ情報を参照しないため、「その画像が本当に公的身分証から取得されたものか」を技術的に保証できません。これが、制度上ホ方式が廃止される大きな理由の一つです。 - 運用負担の大きさ
画像の判読や照合は最終的に人の目に頼らざるを得ず、審査部門のリソースを消費します。画像が不鮮明(ブレ・ボケ等)な場合では、再度ユーザー様に撮影をしていただく必要があるなど、ユーザー体験の阻害要因となります。 - スケーラビリティ不足
目視確認に依存するため、大量申込への対応が困難です。繁忙期やキャンペーン時には処理遅延が発生しやすく、業務効率を圧迫します。
こうした背景から、2027年4月1日に予定されている犯罪収益移転防止法施行規則の改正(携帯法は2026年4月に改正)では、ホ方式が正式に廃止される見込みです。
以降はICチップの読取を前提とする方式への移行が必須となり、事業者にとって本人確認システムの刷新や運用フローの見直しは避けて通れないテーマとなります。
比較対象となる主要方式の概要
ホ方式廃止後に利用可能な方式は以下の通りです。
- カ方式(JPKI方式):マイナンバーカードIC+署名用電子証明書の暗証番号を利用
- へ方式:ICチップ読取+セルフィー画像との照合
- ル方式(ウォレット方式):Apple Wallet等にマイナンバーカード情報を事前登録し、端末生体認証のみで本人確認(Androidは2026年秋頃にリリース予定との報道発表あり)
- ト方式:ICチップ読取+他の特定事業者の顧客情報の照会(または既存銀行口座への振込)
- チ方式:住民票等の写しの送付またはICチップ読取+転送不要郵便
ICチップ付きの本人確認書類を保有しない者等への対応として、一定の本人確認書類(住民票の写し等)の原本送付を受け、かつ取引関連文書を転送不要郵便物として送付する方法を残置するなど、補完措置が整備されます。
このうち、主軸として検討されるのはカ方式・へ方式・ル方式となり、今後の本人確認は「本人確認書類のICチップを利用する方式」が前提となります。
※各本人確認方式名(ホ、へ、カ方式等)は2025年6月24日時点の犯罪による収益の移転防止に関する法律(犯収法)および施行規則をもとに記載しています。
今後の確認方式
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「携帯電話不正利用防止法に基づく本人確認方法の見直しの方向性について」(総務省)(https://www.soumu.go.jp/main_content/000942596.pdf)を加工して作成
カ方式(JPKI)の強みと弱み
カ方式は、マイナンバーカードを利用することで国民の約8割をカバーできる点が最大の強みです。さらに、「基本4情報取得機能」により、住所変更や氏名変更をユーザー申告に頼らず自動反映できます。
- 強み
- 2025年7月末現在の保有枚数は9,852万枚で日本の人口の約79.2%が保有しており、幅広いユーザー層をカバーできる
- 基本4情報(氏名・住所・生年月日・性別)を自動取得でき、最新情報を反映可能
- 自動化率は約94%と高く、審査部門の負担を大幅に削減(2025年9月現在で約6%が電子証明書が失効)
- 弱み
- 暗証番号忘れや証明書失効により、3〜5割のユーザーが離脱
- カードと暗証番号が揃えば第三者による不正申請が可能で、セルフィー併用を推奨
- マイナンバーカードを保有しないユーザーは利用不可
また、2020年のマイナポイント施策で発行された電子証明書が2025年以降に大量失効を迎えるため、利用できないユーザーが増加(現在の6%から増加) する見込みです。
カ方式を主導線とする場合、この離脱リスクを軽減する補完方式が欠かせません。
へ方式の強みと弱み
へ方式は、ICチップを読み取りセルフィー照合を行う方式で、最も推奨されるアプローチです。
- 強み
- マイナンバーカード
- 全国民が対象で、暗証番号不要 → 離脱率は約15%~30%にとどまる
- IC内の顔写真とセルフィー容貌写真とを顔認証するため、なりすましが困難
- 自動化率は98〜99%と非常に高い
- 運転免許証
- 令和5年末時点で約8,186万枚が保有
- 暗証番号入力が必須で、暗証番号忘れにより、離脱率は約30〜50%
- セルフィー照合を併用するためセキュリティは高いが、自動化率は約82~83%程度にとどまる(運転免許証には約15~16%程度、外字が含まれているため)
- 在留カード/特別永住者証明書
- 約400万人が対象
- 暗証番号不要、離脱率は約20〜30%
- IC内に格納されている表面情報で本人確認を自動化するかは事業者の判断となる
- マイナンバーカード
- 弱み
- 運転免許証
- 外字や氏名表記ゆれへの対応が必要(OCRや目視で補完)
- 在留カード/特別永住者証明書
- 法改正後は、在留カードの裏面情報を補完しての本人確認は不可になる見通し
- 運転免許証
総じて、へ方式は「低離脱率・高自動化率・強固なセキュリティ」の三拍子が揃い、最も安定した方式です。ただし外字や住所変更など例外ケースの扱いが運用上のポイントとなります。
ル方式の強みと弱み
ル方式はApple Wallet等にマイナンバーカードを事前登録し、端末生体認証のみで本人確認を行う新方式です。(Androidは2026年度中に対応予定との報道発表あり)
- 強み
- PIN入力やICチップ読取操作が不要で、離脱率を最小化できる
- 端末のFace/Touch IDを利用するため、フィッシング耐性が高い
- ほぼ完全に自動化可能で、事業者側の目視負担は不要
- 弱み
- 利用には事前のウォレット登録が必須
- 現時点ではiOSユーザーが中心で、Android環境は未整備(Androidは2026年秋頃にリリース予定との報道発表あり)
- 普及度合いに依存するため、導線設計では補助的役割に留まる
ル方式は「使えるユーザーにとっては最良の導線」ですが、普及度の制約を考慮すると、カ方式やへ方式の補完として設計するのが現実的です。
その他方式(ト方式・チ方式など)
ト方式(銀行口座照合)は金融機関との連携に依存するため、利便性は高いものの制約が多く残ります。チ方式(転送不要郵便)は対面に近い信頼性を担保できますが、郵送のタイムラグが発生し、ユーザー体験を大きく損ないます。
これらは補完的な手段であり、大量の申込処理には不向きです。
ICチップ付きの本人確認書類を保有しない者等への対応として、一定の本人確認書類(住民票の写し等)の原本送付を受け、かつ取引関連文書を転送不要郵便物として送付する方法が補完的な手段となります。
比較軸ごとの分析
各方式を「ユーザーカバレッジ」「UX」「セキュリティ」「運用効率」「導入コスト」の観点で比較すると以下の通りです。
- ユーザーカバレッジ:カ方式・へ方式が広い。ル方式は限定的
- UX:へ方式(暗証番号不要)とル方式(直感操作)が優位
- セキュリティ:セルフィー照合を行うへ方式、生体認証を用いるル方式が強固
- 運用効率:へ方式とル方式はほぼ全自動。カ方式は約94%
- 導入コスト:ル方式はユーザー事前登録依存。カ方式・へ方式はSDKで比較的導入容易
典型的なユーザーシナリオと方式ごとの対応
- 暗証番号を忘れたユーザー → カ方式では離脱。へ方式を代替導線として用意する必要あり
- 在留カードで申込するユーザー → 記載住所での本人確認は不可になる予定。他の本人確認書類や他方式への誘導が必須
- 免許証で申込するユーザー → 暗証番号忘れの離脱リスクが高く、サポート対応を設計に組み込む必要がある
- iOSウォレット登録済みユーザー → ル方式に誘導することで離脱率を最小化できる
- 証明書が失効しているユーザー → カ方式単独では対応できず、他方式(へ方式等)への誘導が必須
こうしたシナリオを踏まえた導線設計が、実務上のカギとなります。
方式比較から見える実務インパクト
方式ごとの強みと弱みを整理します。
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カ方式は国民カバレッジが広く、自動取得機能に強みがあるが、暗証番号忘れ・失効が大きな離脱要因
- へ方式は最も安定した方式で、低離脱率と高セキュリティを兼ね備える
- ル方式は直感的なUXと高い自動化率を持つが、対象ユーザーが限定的
結論としては「へ方式を主軸、カ方式を補完、ル方式を追加導線」とする二段構えが現実的です。
具体的には、
- 2025〜2026年度:現行ホ方式からへ方式への移行検討
- 2026年度後半〜:カ方式との併用設計・システム更改計画への反映
- 2027年以降:ル方式の普及状況を見ながら、ウォレット利用ユーザー向けの優先導線として順次拡張
といったロードマップで検討するのが一つの目安となります。
LIQUID eKYCによる最適化のアプローチ
LIQUID eKYCは、各方式の弱点を補完しながら最適化を図れる仕組みを提供しています。
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ICおまかせパックを活用し、ユーザー環境に応じてチャネルを自動選択
- SDKでiOS・Android双方に対応し、ICチップの読取位置も自動探索(Androidのみ対象)
- 外字やカナ変換、外国人判定等の独自返却項目が豊富で、事業者様の照合エラーを軽減
これにより、事業者は少ない開発リソースで多様なユーザー層をカバーできます。
「2027年対応に間に合うか」「既存システムとの連携がどの程度必要か」といった具体的なご相談にもお応えしていますので、自社の現在の方式・申込ボリューム・KPI(離脱率・自動化率など)を踏まえた個別シミュレーションをご希望の方は、お気軽にお問い合わせください。
まとめ
- 2027年4月以降、ホ方式は廃止され、ICチップ読取を前提とした方式が必須となる
- カ方式:国民カバレッジ広いが、暗証番号依存・証明書失効リスクあり
- へ方式:低離脱率・高自動化率・強固なセキュリティを兼ね備え、最も安定した方式
- ル方式:直感的で利便性が高いが、現状では補完的役割に留まる
- ト/チ方式:信頼性は高いが、UXと効率面で制約が大きい
事業者にとっての最適解は、へ方式を軸に、カ方式を補完、ル方式を追加導線とする二段構えの設計 です。
これにより「ユーザー利便性」「セキュリティ」「運用効率」の三要素を同時に満たし、2027年以降も持続可能なeKYC運用を実現できます。
LIQUID eKYCは、金融機関や大手事業者で数多くの導入実績を持ち、法令対応からユーザー体験改善まで支援可能です。
詳細な導入方法や運用に関するご相談は、以下よりお問い合わせください。

Liquidは、生体認証を活用し、認証を空気化することで、世界約80億人全ての人があるがままの状態であらゆるサービスを簡単・安全に使える、なめらかな世界の実現を目指しています。また、金融の取引時確認(犯罪収益移転防止法)、携帯電話契約(携帯電話不正利用防止法)、中古品買取(古物営業法)、不動産取引、CtoC取引などにおける本人確認のオンライン化の流れに合わせ、業界や導入事業者をまたがって横断的に不正検知を行う仕組みを提供し、利便性とセキュリティの両面を追求して参ります。





